第二章 森のなまかたち
第二章 森のなまかたち
こうして、みちとぬり、二匹の仔ぐまは、森のなかでいろんな動物さん、虫さん、そしてお花や、木々となかよく暮らしていました。
ところで、寒い国の寒い地方とはいっても、季節はちゃんとめぐってきます。さむーい冬は、あたり一面が雪で真っ白になり、それまで二匹といっしょに遊んでいたほかの動物さんたちも、みんないなくなります。「いなくなる」というのは正しくありませんね。「かくれる」というほうがよいでしょう。
みなさんは「とうみん(冬眠)」ということばを知っていますよね? そうです、動物さんたちは、冬になると、寒さから身を守るために、地面に穴を掘ったり、雪や風をさけられる木のうろをみつけて身をかくすのです。そうしてじっと、あたたかい春が来るのを待つわけです。
冬眠中、動物さんたちは、基本的にごはんを食べません。
でもなんの準備もしないで冬眠に入ってしまうと、たいへんです。おなかがへり過ぎて春まで身がもたなくなってしまうからです。
では、動物さんたちはどうするのでしょう? そうです。少しでも「おなかのへり過ぎ」をさけるために、冬眠にはいる前に、できるだけいっぱいごはんを食べて、思いっきり太って、春が来るまでの栄養を体にたくわえておくのです。
さて、二匹の仔ぐまたちです。
この二匹の場合は、生まれてすぐの冬は、生き別れてしまった親ぐまが、かろうじて木のうろにたくわえていた「ぽっちり」の食料でしのいだのでした。そして、春になってからは、まわりの動物さんたちにいろいろとえさの取り方を教わったり、前にお話したように、蜂さんたちとなかよくなって「はちみち」を分けてもらったりして、だんだんと生きていくすべ(術)を身につけていったのでした。
そうして、春から夏にかけては、空気のきれいなこのあたりは、二匹にとってはもう食べ物の宝庫でした。
やがて、だんだんとあたりが涼しくなってくると、秋がやってきます。そして、だんだんと二匹の食べ物もへってきます。
「みちさん、だんだん食べ物がとれなくなってきたね」
「うん。これは、『あき』っていう季節がもうきているってことなんだろうね、ぬり」
「みちさん、ぼく、きつねさんに聞いたんだけど『あき』のつぎは『ふゆ』っていう季節がくるんだよ。その『ふゆ』っていうのは、まえに、ぼくたちが木のうろでふるえながら『ぽっちり』のたべものをたべてすごしたあのさむーい季節なんだよ」
「ああ、あれをもう一回やるのはいやだねぇ……。ぬり、どうしよう……」
「そうだよね、みちさん。それでね、ぼく、さらにきつねさんに聞いてみたんだ。『きつねさん、“ふゆ”はどうやってやり過ごせばいいの』って。きつねさんは、こういっていたよ。『“ふゆ”は、森のどうぶつたちはみんななんにもしないんだよ。つまりずーっと寝ているんだ。でもね、それまでにちゃーんと準備をしておかないとだめなんだよ。つまりね、寝るまえにたべものをいっぱい食べて、できるだけ太っておくことなんだ』って」
「なるほど。できるだけたべものをたべるのかぁ。でも、ぬり、森のなかにはもうだいぶんたべものがへってきちゃったよね。どうしよう?」
「うん、ぼくもそれが心配になったんで、こんどはお空を飛んでいたとんびさんに聞いてみたんだ。『ねえ、とんびさん、ぼくたちのたべものがだんだんへってきちゃったんだ。よかったらどうしたらいいか教えてください』って」
「とんびさんかぁ。そうだね、とんびさんはお空を飛んでいるから、森の全体が見渡せるし、この森以外のことも知っているはずだよね。ぬりは賢いね。いいところに気づいたね」
「それほどでもぉ……」
ぬりは、みちにほめられてちょっぴりほこらしく、ちょっぴり恥ずかしくなりました。
「それでね、とんびさんはこういってたよ。『おまえさんたちのようなくまは、たいていこの季節には、森のはずれにある川のほうにいって、さけやますをとっているな』って」
「“さけ”や“ます”ってどんなたべものなんだろう……」
みちは聞いたことのないたべものの名前にとまどいました。
「そう、ぼくも聞いたことないし見たこともないので、さらに聞いてみたんだ。『とんびさん、その“さけ”や“ます”ってどんなたべものなの?』って。そうしたら、とんびさん『おまえさんたち、“さけ”も“ます”も知らないでよくまえの冬を越せたな』って驚きながらも教えてくれたんだ。とんびさんのいうことでは、この“さけ”や“ます”というのは、川に住む“おさかな”といういきものなんだって。それでね、『あき』になると、森のはずれの川にたくさんやってきて、くまたちはそれをつかまえて食べるんだって。それはいっぱいの栄養をふくんでいて、それでもっておなかをいっぱいにして『ふゆ』のねむりにそなえるんだそうだよ」
「なーるほど。よーくわかったよ、ぬり。ではその川に行くとしようか。でも、ぬり、ぼくたちその川がどっちの方角にあるか知らないね。どうしよう……」
「だいじょうぶ、みちさん。ぼくも不安だったのでとんびさんに聞いたら、あしたの朝、この空の上をとんびさんたちが飛んでくれて、ぼくたちを川に案内してくれるって。だからね、ぼくたちは、空を見て、とんびさんの飛ぶ方向に森をずーっと歩いていけばいいって言ってくれたんだ」
「ぬり、えらいねぇ。よくそこまでとんびさんにお願いできたね。ぬりはほんとうにかしこいや」
「それほどでもぉ……」
そういってまたぬりは、ちょっぴりほこらしく、ちょっぴりはずかしくなったのでした。
翌朝、いつもより早くに起きた二匹は、どんぐりの実で軽く朝食を済ませると、すぐに、お空が見渡せる近くの場所にいって、しばらくお空を見上げていました。
「みちさん、ぼくちょっぴり首がいたくなっちゃった」
「そうだね。ずーっと上を向いていると疲れちゃうねぇ」
「そうだ、みちさん、こうしましょうよ。ぼくが上を見ている時は、みちさんが下を向いてちょっと休んで、しばらくしたら、その反対っていうふうに。“かわりばんつ”に上を向けば、ずーっと上を向いているよりは疲れないのじゃないかなぁ」
「うん。なるほど。本当にかしこいね。ぬりは」
「それほどで……」
いつものように、ぬりがほこらしくもはずかしがろうとしたとき、お空の上のほうから、
「ぴーひょろろろ」
と、とんびさんの声が聞こえてきました。
「やあ、来た来た」
みちが歓声を上げました。すると、
「いやぁ、すまんすまん。ちと朝寝坊してしまってな。待たせたな。おまえさんたちはもう朝ごはんはすませたのかい?」
と、とんびさんが上空で大きな輪を描きながら、大きなお声で語りかけてきました。
「はい、もうすませました。それで、みちさんとふたりでこうしてお空を見上げて待っていたんです」
「そうじゃったか。ずーっと上を見ていたらさぞ疲れたことだろう。すまんかったな」
「いえ、とんびさん。ちょうどふたりで“かわりばんつ”に上を向けばいいね、って考えた時にとんびさんが来てくれたんです」
「おお、それはいい考えだね」
「ところで、とんびさん。おさかなのいる川までってどのくらい歩くのですか?」
「うーむ。わしらならここから10分もあればいくがなぁ。おまえさんたちの足だと、100分くらいかな?」
「ひゃ、ひゃ、ひゃっぷん……」
ぬりは絶句してしまいました。
「おやおや、くま君や、そんなに驚くほどでもなかろうに」
とんびさんは、いまにも気絶しそうなぬりの姿をみてびっくりしました。
「とんびさん、このぬりは、『ひゃく』ってかず(数)に弱いんです。ぼくはぬりに比べればもっとかずに弱いんだけど、そもそも、それがどのくらいなのかわからないからあんまり驚かないんだ。ところで、その『ひゃっぷん』って、どのくらいなの?」
「うーん。時間のことがわからないとなると説明がむずかしいな。おお、そうじゃ、こういえばわかるじゃろ。いまからだと、『ちょうどお昼ころに着く』ということじゃ」
「なーんだ、そのくらいなのか。じゃあ、大丈夫」
みちが言うと、正気を取り戻したぬりが、
「それを聞いて安心しました。ぼく、たくさんたくさん、『もう歩けません』っていうくらい歩くのかと思った……」
と、ほっとして言うのでした。
こうして、いよいよ二匹は上空を飛ぶとんびさんにしたがって出発したのです。
ぬりが言ったように、二匹は上空を「かわりばんつ」に見上げながら、とんびさんの飛ぶ方角にしたがって、ときどき小走りになるようにして歩いていきました。
ところで、みちが上空を見ながら行くときはいいのですが、ぬりが上空を見ながら歩くときは、ちょっと心配ごとがおきました。
どうも、ぬりは上空を見ながら歩くとまっすぐに歩けないのです。それで、後ろから着いていくみちは「はらはらどきどき」のしどうしとなってしまうのです。
「ぬり、大丈夫かい?」
「ええ、みちさん……」
ちょっぴり不安気な声でぬりが応じてから間もなくのことです。
「あっ」
ぬりが軽く悲鳴を上げました。
「危ない、ぬり!」
と、みちが言う間もなく、ぬりは、落ち葉に足をとられて「すてん」と転んでしまいました。
上空から見下ろしていたとんびさんが、その姿をみて、
「ぴーひょろろ。わはは」
と大きな声で笑いました。
みちも、ちょっと滑稽なぬりの転び方をみて、心配よりも先にちょっと笑ってしまいました。
「みちさーん。ひどいや。とんびさんも。ぼくは真剣に歩いていたんですよ」
さいわい、いっぱいに敷き詰められていた落ち葉が、ふかふかのクッションのようになっていたので、怪我することもなく、ちょっぴりふくれてぬりは起き上がりました。
ともあれ、こんなふうにして二匹の仔ぐまの珍道中が続けられ、予定の100分を少し過ぎようかという「お昼時」、
「ほーれ、くまくんたち。もうすぐじゃぞ」
と、とんびさんが上空から語りかけてきました。
二匹が耳をすませると、「ざー」っという川のせせらぎの音が聞こえてきました。
「みちさん、あれがきっと川の音なんだね」
「そうだね、ぬり。すごく近くに聞こえるね」
そう言い合いながら、生い茂る草を分け行くと、目の前がぱっと開けました。
「ここがわしの言っていた川じゃよ。到着、とうちゃくー」
とんびさんは二匹を無事、川に案内できて満足そうに言いました。
「ありがとう。とんびさん。とっても助かりました」
「いやいや、例には及ばんよ。また困ったことがあったらなんでもわしらとんびに聞くがいい。いつでも飛んできてあげるからな」
そう言って、とんびさんは三回ほどお空で輪を描いてから、また飛んでいってしまいました。
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コメント
さぶさん、荒っぽいけど実はやさしい?みちは元気いっぱいで、ぬりはおっとりした仔だと思います。とんびさんもいい味だしてますね!続きが楽しみです。
投稿: こいぬ | 2007年4月21日 (土) 20時03分